研修レポート

「手づくりリコーダー製作と、ものづくりにおける地域連携を学ぶ」

参加者:ノルドミューズ理事5名及び正会員2名。計7名。

日程:2018年3月9日(金),10日(土)の2日間

訪問先:竹山木管楽器製作所堺伝統産業会館矢内刃物 

 

ノルドミューズの「楽器製作事業」では、北海道産の木材や皮革などの未利用資源を活用した楽器製作に取り組んでいます。

同事業は「資源豊かな北海道の子どもたちに、郷土の素材で作った楽器を手にしてもらいたい」という願いから生まれました。すでに昨年、イタヤカエデを使ったキャブレットのピエ(笛)の製作ワークショップを実施し、同素材が管楽器に適すことを確認しました(※画像は実際に制作したピエ)。


そして今回の楽器作りの研修は、わが国の義務教育課程の音楽授業において小学校3年生以降必ず手にするリコーダーの製作に着目して行われました。

現在、小・中学校で導入されているリコーダーは、ほとんどがABS樹脂(プラスチック)製です。卒業後に継続して使い続けている児童・生徒は少なく、残念ながらいつしか捨てられてしまうケースも多くあります。このリコーダーを生まれ故郷の素材で作り、日々の授業で愛着を持って使用し、卒業後も末永く故郷と自分のつながりを確認する思い出の品として大切にしてもらえることを願って企画しました。

 

研修先としてお訪ねしたのは、大阪市住之江区安立にある竹山木管楽器製作所です。ソプラニーノからバスリコーダーの他、ピッチが415Hzの特殊なリコーダーも手掛けている、手づくりリコーダーの老舗です。

 

今回は竹山宏之社長自らが2日間に渡って、リコーダーづくりの製作ノウハウ、そしてこの地域のものづくりの歴史とスピリッツをご教授くださいました。


第1日目:リコーダー工場見学

工場は3階建てで、1階から順に見学しました。

1階奥にはサウナのような木材を乾燥させる部屋があり、1年以上かけてじっくり乾燥させていました。乾燥が済んだらまず旋盤を使っておおまかに円筒状に成形。それをデータがプログラミングされた機械でさらに細かいディテールを掘ります。他には歌口の内部を埋める木材を成形する場所がありました。

2階では内径をさらに微細に削る工程や、指孔を作る工程を行っていました。

3階では、最終工程となる音色・音程の調整が行われていました。歌口の部分を少しずつ削るという微細な作業をされていました。この工程が最も神経を使いかつ職人技が求められます。3階の残りの広いスペースは、乾燥室に入れる前に自然乾燥させる木材の保管場所となっていました。

ショールームに陳列されている沢山のリコーダー
ショールームに陳列されている沢山のリコーダー

リコーダーの製作工程を細かく分けると全部で50工程になるそうです。各工程に使用される機械は、既成のものを独自にカスタマイズしています(例えば木材を削る刃先の部分は独自の設計によりおがくずが溜まらない仕組みになっていました)。

すべてのスタッフは部門専属ではなく、他の工程にもマルチに携わることが出来るとのことでした。

この日の最後に、併設されているショールームを見学させて頂きました。音色のみならず見た目にも美しいリコーダーが所狭しと陳列されていました。

 

こちらから訪問の数日前に、試作用の道産イタヤカエデの材をすでに送ってあり、それを用いた教育用リコーダー製作を改めてお願いいたしました(木材提供は共和町の木工房「案山子の里」様)。完成までは1年以上の月日を待たねばなりませんが、道産木材で作るリコーダーはどんな音が鳴るのでしょうか?非常に楽しみです。


第2日目:堺市ものづくりの見学・ミーティング

2日目はまず竹山社長案内のもと、職人の町堺市を見学しました。古くから交易で栄えた港があることから様々な製品・技術が伝わってきた地域で、現在も多くの刃物やお香の職人が営みを続けていました。

堺伝統産業会館 http://www.sakaidensan.jp/

矢内刃物 http://yauchi-hamono.com/

お香の専門店「薫主堂」にて、線香の製造工程を解説してくださっています http://www.kunsyudou.jp/
お香の専門店「薫主堂」にて、線香の製造工程を解説してくださっています http://www.kunsyudou.jp/

町を歩いて特徴的だったのは、住民が一丸となって旅行者が気軽に見学できる体制を整えており、どの工場や商店でも懇切丁寧に対応してくださることです。それぞれの内情は北海道同様に人手不足・後継者不足を抱えていましたが、その中においても、外からの訪問者に対して地域のものづくり精神を丁寧に伝える姿勢に感心しました。自分の商売だけでなく、地域で連携するメリットを活かし、インバウンドにつなげる政策は素晴らしいと思いました。

 

その後のミーティングでは、竹山木管楽器製作所でも実施している台湾からの観光(見学)客誘致における北海道との連携、また国際的リコーダーイベントの北海道開催の可能性を示唆していただきました。将来的に、竹山さんからのれん分けしていただいたリコーダー工場が北海道で産声をあげることが出来れば素晴らしいことです。資源あふれる土地の強みを活かし、手づくりの音楽が溢れる地域活性のために、このプロジェクトを着実に前に進めたいと思いました。

最後に竹山社長と工場スタッフの皆様に、この場を借りて心よりお礼申し上げます。今後の展開のプロセスでまた様々な相談に乗って下さい。本当にありがとうございました。